田舎に作られた大きな刑務所。
いつもの畑仕事を行う囚人たち。
昼食の時間になり、ハズキ(二十二)はわずかな食事を口にしている。
オギ(三十五)が正面に座り話しかける。
オギ「よお、新入り。もう慣れたか?」
ハズキ「まったく慣れませんよ、オギさん……。なんであんなくだらない女に騙されてしまったのだろうって後悔ばかりで……」
オギ「重症だなあ、ここから出たいか?」
ハズキ「そりゃあ、まあ。家でテレビ見て、友達と無駄話して……、そんななんでもない暮らしに戻りたいです。でも、無理ですね……、騙されたといえ、犯罪を犯したんですから……」
オギ「ここから出るの、無理じゃねえぜ」
ハズキ「やめてください、脱獄なんてする気ないですから」
オギ「誰がそんなこと言った? 合法的に刑務所を出る方法があるんだよ」
ハズキ「えっ?」
オギ「『囚人クイズ』さ」
ハズキ「囚人クイズ?」
オギ「ああ、ここの囚人たちを集めて行われるクイズ大会さ。勝ち抜けば即釈放ってわけ」
ハズキ「そんなうまい話があるんですか?」
オギ「あるんだよ。参加できるのは、人に騙されて罪を犯した情状酌量の余地のある連中だけ。勝ち抜けば刑務所長の特別な恩赦で釈放。大会は年に一度だけ、都合のいいことに、来週に開かれるんだよ。このチャンスを逃す手はないぞ。どうだ参加してみないか?」
ハズキ「で、でも、勝てるかどうか……」
オギ「あんたは東大出のエリートだろ、楽勝さ。さっき確認したら、参加者の定員まであと一人だった。早く決めないと誰かに先を越されちまうぜ。ここを出たいんだろ? やるしかないって」
ハズキ「あと一人……」
少し悩んでから言う。
ハズキ「わかりました。参加してみます」
オギ「よし、決まりだ。待ってろ、俺がすぐに行って申し込んできてやる」
ハズキ「ありがとうございます。ところで、オギさんも参加するんですか?」
オギ「俺の罪は情状酌量の余地なんてないから参加の資格すらないよ、はははっ。じゃあ、また後で」
立ち去るオギ。
ハズキ「勝てば釈放か……、がんばらないとな」
急にやる気が出て来るハズキ。
◎刑務所の事務室
オギが囚人クイズの受付担当者の男と話をしている。
オギ「囚人クイズに出たいって奴がいましたよ」
男A「ほう、そんな奇特なのがいたか。で、そいつは生き残れそうなのか?」
オギ「ハズキって新入りですよ。俺が見たところ、根っからの騙され人間ですね。俺の言った事に何も疑問を感じていないようでしたから……。囚人クイズじゃあ真っ先に負けるタイプですよ」
男A「そうか、そんなお人好しか」
オギ「ええ、まあ。そういうわけで、俺は脱獄を試みた罰で強制参加になっていましたが、代わりを見つけたんで、約束どおり免除してもらえますよね?」
男A「わかってる。お前の代わりにハズキに出てもらう」
事務室を出るオギ。
オギN「ハズキ君、世の中には騙す人間と騙される人間しか存在しないんだよ。せいぜいがんばってくれよ。囚人クイズ……くくく」
◎囚人クイズ会場
学校の教室のような会場に、参加者の囚人たち(五十人)が集まっている。
その内の十人くらいは女性。
いかつい看守たちが部屋の隅で監視している。
参加者は全員名札を手渡され、胸に付ける。
刑務所長が現われる。
所長「囚人の諸君、こんにちは。今年も恒例の『囚人クイズ』が開催されることになり、大変うれしく思う」
囚人達「……」
所長は囚人たちの不安そうな様子を見て言う。
所長「どんなクイズが行われるのか気になっているようだね。でも、安心したまえ、必ずしもクイズに強い奴が勝てる勝負じゃない。弱きものこそ創意工夫で勝つことができる。それが囚人クイズだ」
囚人A「なんだ、弱くても勝てるのか、安心したぜ……」
所長「君達はみな、人にだまされて犯罪を犯したそうだねえ。だったら、今日はたっぷりと人を騙す楽しみを体験するといい」
ハズキ「えっ、どういう意味です?」
所長「いずれ分かる」
立ち去ろうとする所長に向かってハズキが質問する。
ハズキ「じゃあ、どうして恩赦を与える人物をクイズ勝負で決めるんですか?」
所長「社会に出ても大丈夫な頭があるかをチェックするためだよ。このクイズで勝ち残れないような奴は必ずまたここに戻ってくる」
ハズキ「……」
所長「諸君、これ以上の質問は受け付けない。疑問があっても自分で考えるんだ。もうクイズは始まっているんだよ。ふふふ」
部屋を出て行く所長。
ハズキN「クイズは始まっている?」
看守A「よし、第一ラウンドを始める。『フリーペーパークイズ』だ」
問題の書かれた紙を見せる看守。
囚人B「なんだよ。やっぱりただ知識がある奴が勝てるクイズじゃねえか」
看守A「問題は全部で百問ある。一点に付き十万円を与える。最高一千万だ。金は第二ステージで使える」
囚人C「第二ラウンドはどんなクイズなんですか?」
看守A「質問には答えないといっただろ!!」
囚人達「……」
看守A「第一ラウンドの通過条件は、この解答用紙を出すことだ。出せば0点でも第二ラウンドに行ける」
すると、囚人の一人が自慢げに言う。
囚人D 「よお、みんな。俺はいくつものクイズ番組で優勝している。このラウンドの一位通過はもらったぜ」
勝ったも同然といった様子の囚人D。
ハズキN「ペーパークイズは失格者を決めるんじゃなく、次で使えるお金の額を決めるためだけってことか……。第二ラウンドでギャンブルでもやろうってのかよ。とにかく、金はあって困ることはないんだから、一点でも多く取るしかない」
問題が配らる。
看守A「制限時間は一時間。各自の点数は採点後に公表する。では、『フリーペーパークイズ』スタート」
問題を見て思うハズキ。
ハズキN「知識クイズならこっちのものだ。大学受験で詰め込んだ知識でほとんど答えられる」
ほとんどの問題に解答を記入していくハズキ。
一時間後。
試験が終了し、解答用紙が集められる。
看守A「おい、君は解答用紙を出さないのか?」
さっきクイズ番組の優勝者だと告白した人物が解答用紙を出そうとしない。
囚人D「この一時間いろいろ考えたが、俺は降りることにした。さっき余計なことを言ったばかりに、次のラウンドでは勝てないって分かったからな。うかつだったぜ、こんなことに気が付かないなんて」
ハズキN「クイズが得意なのに勝てないだなんて、何を言っているんだあの男」
看守A「わかった、お前は失格だ」
ハズキ「次勝てないって、どういう意味?」
囚人Dに訊く、ハズキ。
看守A「勝手に質問するな!!」
ハズキ「すみません……」
看守A「解答用紙を出したものは、次の会場に移動して待っていろ。採点が終わったら、各自の点数と第二ラウンドのクイズ形式を発表する」
◎第二ステージ会場。
看守に連れられて移動する囚人たち。
体育館のような場所。
十台程度、一対一で戦う早押しクイズ台が置かれている。
ハズキ「第二ラウンドは早押しか……、しかも一対一。勝ったほうが勝ち抜けってことか? それにしても、さっきの男が言っていた言葉が気になる。彼はいったい何に気が付いたんだ……」
しばらくして看守Aが現れる。
看守A「お待たせ、採点が終わった。高得点者から順番に発表していく、名前を呼ばれた ら前に出るんだ。全員の点数表と獲得した金を渡す」
緊張する囚人たち。
看守A「第一位、八十点……。クロベハズキ」
ハズキ「よしっ」
小さくガッツポーズ。
前に出て、点数表とお金を受け取るハズキ。お金は紙袋に入っている。
看守A「第二位、七十七点……。アンドウヒロシ」
二位の男が表とお金を受け取る。
各人の点数表を見て思う。
ハズキ「七十点を超えてるのは、三人だけ。八割がたは四十点台だ。これなら俺はかなり有利なはず……」
全員にお金を渡し終えた看守Aが言う。
看守A「第二ラウンドのクイズを発表する。第二ラウンドを勝ち抜けば、晴れて釈放だ。がんばるがいい」
ハズキN「ここで勝てば釈放だって。願ってもないチャンスだ。やっと元の生活に戻れる」
早くも勝利を確信するハズキ。
看守A「クイズの形式は一対一で行う早押しクイズ。『ダウトクイズ』だ」
囚人たち「……」
看守「ルールは、対戦したい相手を自由に選び、解答席に着く。二人が早押しボタンに手をかけた時点で問題が読まれる。ボタンを押して回答権を得るのは普通の早押しクイズと同じだ。だが、回答者が答えた後、対戦相手はその答えが正解かどうかを判断し、正解だと思えば、『ビリーブ』。間違っていると思えば『ダウト』と言うんだ。正解を言い、『ダウト』といわせるか、間違った答えを言い、『ビリーブ』と言わせれば一ポイントだ。逆に正解、不正解を見破られたら見破った側のポイントになる」
囚人たち「……」
看守A「一問でやめて対戦相手を変えてもいいし、続けて同じ相手と戦ってもいい。二ポイントとったら釈放だ。逆にマイナス一ポイントで勝負を終えれば、失格」
ハズキ「つまり、間違いを正解のように思わせるか、正解を間違いのように思わせるか……。どちらにせよ、うまく相手を騙したほうが勝ちってことだ。所長の言っていた騙し合いとはこういうことか……」
看守A「説明は以上だが、参加をやめるというやつがいたら前に出ろ」
アンドウ「俺は降りるぜ。勝てる気がしないからな」
ハズキが見ると、ペーパーを二位で通過した男だった。
ハズキN「ど、どういうことだ?」
アンドウがハズキに近づいて言う。
アンドウ「あんたもやめるなら今のうちだぜ。この勝負あんたは勝てない」
ハズキ「何だと……」
ハズキは一瞬焦りながらも、冷静さを取り戻し考える。
ハズキN「このクイズの必勝法は相手に答えさせることだ。なぜなら、俺はペーパー一位で、この中では一番知識量があるのだから、相手の答えの正負を判断できる確率が高い。逆に自分で答えてしまえば、相手はビリーブとダウトのどちらかを言えばいいのだから、五十%の確率でポイントを取られる。つまり、相手に答えさせれば、俺は勝てる」
看守A「他にはいないな。じゃあ、クイズスタートだ。制限時間は一時間。時間内に二ポイント取れなかったやつはすべて失格。死刑囚として監獄に逆戻りだ」
ハズキ「えっ、死刑囚ってどういうことだ?」
囚人E「あんた、いまさらなにを言ってんだ。囚人クイズに参加したら、クイズ前に下りれば刑期は十倍になり、勝負して負ければ死刑になる。囚人にとっては一発勝負の大博打。まさか、知らずに参加したわけじゃないだろ」
ハズキN「なるほど話がうますぎると思ったらそんな裏があったのか。だが、考えてみれば当たり前の話だ。勝てば釈放なんだ。それなりのリスクがともなうのは当然だ。しかし、死刑とはな……、絶対負けられなくなった」
看守A「さあ、『ダウトクイズ』スタート」
囚人F「ちょっと、待ってくれ。この金はどう使うんだ?」
ハズキN「そうだ、ペーパーテストで獲得したお金はどうしろっていうんだ? まさか、シャバに出た後で使えというわけでもないだろう」
看守A「何度も言わせるな。質問には答えん」
囚人達「……」
ハズキ「とりあえず、お金のことなどどうでもいい。とにかく今は勝負に勝つことだけを考えるんだ」
ハズキは各自のペーパーテストの点数表を見る。
名札を見て、自分の近くに立っている男が、二十点と点数の低かった「ホリイ リョウ」だと気が付く。
早押し機ではすでに何試合か始まっている。
ハズキN「よし、決めた。この男と勝負だ」
ハズキはリョウに近づき話しかける。
ハズキ「なあ、俺と勝負してくれないか」
リョウはハズキの顔を少し眺めてから、
リョウ「あんたとは勝負しないよ」と言って立ち去る。
ハズキ「待った、頼むよ。勝負してくれ」
リョウ「しつこいんだよ。あんたと戦うわけないだろ、他の奴に頼みな」
あきらめるハズキ。
ハズキ「ま、まさか……」
ハズキは手当たり次第に声を掛けるが、「お前と勝負する気はない」とすべて断られる。
ハズキ「勝負したくないだと……、くそっ!」
青ざめるハズキ。
ハズキ「やっと分かった。勝てないと言って勝負をしないで帰っていった奴らが言っていたことが……。この勝負、俺は勝てない」
落胆して座り込むハズキ。
ハズキ「ダウトクイズは誰と勝負するかは自由に決められる。ということは、勝てる可能性の低い、クイズに強い人間と勝負するのは愚の骨頂。つまり、ペーパーで一位をとり、強いことが公表されてしまった俺と戦う人間はいない……」
クイズ対決では勝敗が決まり始め、勝った奴は喜んで叫び、負けた奴は泣きながら看守に引きずられて部屋を出て行く。
ハズキN「高得点を取って浮かれていた自分がバカだった。ダウトクイズの必勝法は、相手に答えさせることなんかじゃない。真の必勝法はペーパーテストでわざと低い点を取り、自分はクイズは弱いんだと他の連中を騙すことだったんだ……」
歯軋りして悔しがるハズキ。
ハズキ「これが所長の言っていた騙し合いか……」
どんどん勝ち抜け者が出ていく。
ハズキN「どうする? このまま待っていても時間が過ぎるだけだ……。考えろ、考えるんだ。必ず何か、何かあるはずだ……、この絶体絶命の窮地を脱出する方法が……」
悩むハズキは、ふと持っていた紙袋のことに気が付く。
紙袋を開けると八百万円がある。
ハズキ「こ、これだ。これこそ、俺に残された最後の命綱だ」
勢いよく立ち上がる。
ハズキN「金の使い方の説明はなかったのだからどんな風に使ってもいいはず。金を払って勝負してもらうんだ。金を欲しがらない奴なんていない。一勝負で四百万払えば二勝負できる。すでに一ポイント取っている奴を探して話を持ちかけるんだ。一回負けてもまだ失格にならないのだから、勝負してもらえる」
ハズキはじっと勝負を眺め、一ポイントとなった囚人Fを見つけた。
その男に歩み寄り、声を掛けるハズキ。
ハズキ「四百万払う。一回でいいから俺と勝負してくれ」
囚人Fは「ふん」と鼻で笑い、
囚人F「お前はアホか。この勝負、負ければ死刑。とにかく勝たなきゃならねえ。ポイントを取ることがすべてなんだよ。金なんかただの紙切れさ」
ハズキ「……」
囚人F「ペーパーテストの時に金なんか必要ないと気が付かなかった時点で、お前は負けなんだよ」
再び落胆し、部屋の隅で座り込むハズキ。
囚人Fは次の勝負にも勝って釈放されていく。
ハズキ「あいつの言うとおりだ。ここは生きるか死ぬかの騙し合いが行われている修羅場。学歴は高いほうがいい、点数は高いほうがいい、金はたくさん持っていたほうがいい、そういう先入観に縛られている奴は勝てやしない」
握りこぶしに力を込める。
ハズキ「所長の言うように社会に出てから生き抜いていける能力があるかどうか試されている……。二度と騙さないかどうかを……、ふっ、今頃気が付いてももう遅い。俺は負けたんだ……、誰とも勝負できずに、時間切れ……ジエンド」
完全に諦めてうなだれていると声が聞こえる。
マオ「あんた、もう諦めたんだ」
ハズキ「えっ」
ハズキは目の前に立つ女性を見て驚く。
ハズキ「マ、マオ。どうしてお前がここに?」
マオはハズキが牢獄に入る原因を作った人物。
マオ「あんたが捕まった後、私も捕まったのよ」
ハズキ「あれだけ人を騙し続けていたんだ。自業自得だな」
マオ「……そうね。悪かったわ」
ハズキ「何だよ。意外に素直じゃないかよ」
マオ「あんたを騙して麻薬を運ばせていたこと、あやまるわ。ごめんなさい。もう私のことなんか信じてもらえないかもしれないけど、ほんとなの、反省してるわ」
元気なくうなだれるマオ。
ハズキ「いまさらあやまられたって、もう遅い。俺の人生は終わったんだ。死刑になるんだからな……。ところで、お前はどうなんだ。勝てそうか?」
マオ「私もだめよ。知り合いの死刑囚に、私が大学のクイズ研究会に入っていることをばらされて、一ポイントはなんとか取ったけど、それから誰も勝負してくれない……」
ハズキ「残り時間は後、五分。俺もお前も失格だな」
マオ「いえ、あんたはシャバに出れるわ」
ハズキ「はあ? 何を言ってるんだ。いまさらそんな方法があるわけないだろ」
マオ「私と勝負するのよ」
ハズキ「何!」
マオ「わざと負けてあげるから、二ポイント取って勝ちぬけて」
ハズキ「何をたくらんでる?」
マオ「何もたくらんでなんかないわ。あなたへの罪滅ぼしよ」
ハズキは慎重に考える。
ハズキN「こいつ、本気か? まさか俺を騙して勝ち抜けようとしているんじゃ……、だけど、もう時間がない、万が一マオの言っていることが本当なら勝ちぬけられる。このまま待っていて死刑になるよりはましか……」
意を決して言うハズキ。
ハズキ「わかった勝負しよう」
◎早押し機の前
向かい合うハズキとマオ。
マオ「最後にあなたの役に立ててうれしいわ」
ハズキ「負けたら死刑なんだぞ、ほんとうにいいのか?」
マオ「私にはもう生きる意味なんてないから」
二人が早押しポタンに触れた。ハズキは赤、マオは青。
スピーカーから問題の声が聞こえる。
スピーカー「問題 世の中いいことにはとかく……」
すばやくマオが押す。
マオ「かぜ」
うなずいてハズキに合図を送る。
ハズキN「マオはさっき言った通りに、早いところで押してわざと間違った答えを言っているようだ。疑わしいところはない。俺はダウトといえば一ポイントだ」
ハズキ「ダ……」
ハズキはダウトと言おうとしてやめた。
ハズキN「い、いや、待てよ。マオはクイズ研究会に入っていた。いわばクイズのプロ。もしかしたら、あの短い問題文でも答えを導き出せるのかもしれない……、負けてやるなんていうのは嘘っぱちで、本当は勝つ気なのかもしれない……」
緊張で心臓の鼓動が早まるハズキ。
ハズキN「マオは一ポイント持っているんだ。もう一ポイントで勝ちぬけられる。勝ちたいと思って当然だ」
じっとマオを見つめる。
ハズキN「俺を勝たせてくれるという言葉が本当なら『ダウト』。嘘なら『ビリーブ』。どっちだ。どっちなんだ、マオ」
焦りながら考えるハズキ。
考えた挙句、ついに答える。
ハズキ「ビリーブ!!」
マオ「な、なに……」
スピーカー「正解、赤一ポイント。世の中いいことにはとかく邪魔が入ることのたとえ、『月にむら雲、花に何』という問題でした」
焦るマオ。
ハズキ「やっぱり、俺を騙そうとしていたんだな」
マオ「ど、どうしてバレたの?」
ハズキ「他の奴らの対戦を眺めていて、気が付いたことがある。回答者が答えるとき、正解だと分かっているときは早口になる。そりゃあ、そうだろう。相手に正解だと悟られたくないから無意識のうちに、聞き取りにくいように早口になる。お前もそうだったよ」
マオ「そんなことで私の嘘を見破ったというの?」
ハズキ「さあ、もう一問どうだ? 勝ちたいんだろ、時間がないから俺と勝負するしかないぜ」
時間はあと二分。
マオ「わ、わかった。こうなったら真っ向勝負よ。まだ負けたわけじゃない、二ポイント取って、あんたを地獄に落としてやる」
ハズキ「ついに本性を現したな、マオ」
スピーカー「問題 色の三原色は赤……」
マオが勢いよく押す。
マオ「み、ど、り」
ハズキをにらんで言う。
マオ「今度はどうよ。ゆっくり答えてやったわ。正解、不正解。どっち?」
ハズキ「ふっ、やれやれだぜ。色の三原色は赤と青と何?という問題だから、答えは黄色。とうぜんお前の行った『緑』は間違いだ。だから……」
もったいぶるように答えるハズキ。
ハズキ「ビリーブ」
一瞬、静かになってから、スピーカーから声が聞こえる。
スピーカー「正解、赤一ポイント。勝ち抜け」
マオ「そ、そんな。どうして、私の答えが間違っていると予想しておいてビリーブって言うのよ」
ハズキ「さっき言った正解だと早口になるというのは嘘さ。他の奴らの対戦なんか見てる余裕はなかったからな。お前を動揺させたくて言っただけのこと。俺の言葉でおまえは知らず知らずのうちに萎縮して、押すポイントが遅くなってたんだよ」
マオ「えっ?」
ハズキ「『色の三原色は』という問題文。『は』が上がり調子で発音されていたから、問題はまだ続きますよという合図だ。だから『では、光の三原色は赤、青と何色?』と続くんだ。だったらお前の言った『緑』で正解さ。『色の三原色』の時点で押せなかったお前の負けなんだよ」
マオ「私が動揺したなんて……」
ハズキ「まあ、たまたま分かっただけさ。でも、たとえ答えが分からなかったとしても、ビリーブって言うつもりだったよ」
マオ「どうして?」
ハズキ「理屈なんてないさ。俺は三年間、お前を愛し、お前を見続けてきた。だから分かる。それだけだよ」
崩れ落ちるマオ。
◎刑務所の外
釈放され、刑務所を後にするハズキ。
ぐーっとお腹が鳴る。
ハズキ「近所の定食屋……まだやってるかなあ」
太陽の光が、ハズキを祝福するように照らす。
END