N「200X年、世の中は未曾有の好景気で物が溢れた。物欲を失った上流階級の人間が求めた遊びは、知性を満足させる『クイズ』だった」
◎霧島風雅の住むアパート(夜)
崩れそうな古い木造アパートの一階に、クイズ屋の霧島風雅は住んでいる。
部屋の掃除をする風雅。彼はいつも同じところに同じものがないとイライラする。
しつこいくらいに写真立てを拭く風雅。写真には風雅と元妻の美佐江、娘のアリアが写っている。
電話がかかってくる。
ダイヤル式の黒電話を掴むと、相手が何か言った。
風雅「まかせろ、問題ない(無表情で)」
そう答えるとすぐに立ち上がる。
靴を掴み、玄関ではなく窓から外に出る風雅。
◎賭けクイズ「打会」の会場(夜中)
路地裏に作られた簡易的な競技場。裸電球の照明がまぶしい。
中央に置かれたステージ上にクイズの解答者席がある。それを囲むように、何十人もの観客が集まっている。
◎「打会」会場から少し離れた樹の影(夜中)
新之助「今日の賞品の女は俺好みだ。いつものように頼むぜ」
功刀新之助は、風雅に金を握らせた。
風雅「まかせろ、問題ない(人と目線を合わせないで)」
風雅は人の目を見て話すことが出来ない。
くすくすと笑いながら離れる新之助。
新之助に近づいた男が、風雅に目線を送りながら尋ねる。
男A「お前の対戦相手か? 始めてみる顔だな」
新之助「ああ、やつは霧島風雅。まだ五戦しかしてない新人だ」
男A「強いのか?」
新之助「炎心さんが連れてきた逸材だ。本気でやればかなり強いだろうよ。だが、幸いなことにここが弱い」
頭を指差す。
男A「は?」
新之助「イディオサバン症候群とかいう病気で、見たものを一瞬で覚えられるらしいが、知能は幼稚園児並み。賭けクイズっていう意味すら理解してないさ」
二人が風雅を見ると、彼は手で穴を掘って遊んでいた。
◎賭けクイズ「打会」の会場(夜中)
ステージの中央。早押し対決用の対戦席に座る風雅と新之助。
賞品の女が鎖につながれてぶら下げられ、「放して」と最後の抵抗を試みている。
一対一のクイズ対決の途中。
新之助「ワーグナー」
正解の判定音が鳴る。
風雅は焦る様子もなくぺろぺろとキャンディーをなめている。
スピーカーから女性の声で問題が読まれる。
声「問題、フェンシングで主審がアンガルド、エト・ブ・プレ……」
パンとボタンを押し問題を止める。
新之助「次に言う『始め』の合図は……、『アレ』」
正解の判定音が鳴る。
新之助「よしっ!」
賞品の女の元に歩み寄り、
新之助「へっへっ、俺のものだ」
と言って、女を引きずっていく。
会場は盛り上がる。観客はみな身なりのいい金持ちばかり。
観客「なに負けてやがるんだ。俺はお前に全財産を賭けたんだぞ」
と言って石を投げる。
つられて他の観客も手元の物を投げ始める。
風雅は慌てて逃げた。
逃げてきた風雅に新之助が呟く。
新之助「我慢しろ。『スケルトンインザクローゼット(人目をはばかる秘密)』の一員でいたけりゃ、けして裏切らないことだ。いいな」
風雅「まかせろ、問題ない」
遠くで見ていた『スケルトンインザクローゼット』の首領である桐生炎心が不気味に笑う。彼の周りには、付き添うように何人もの人間がいる。
◎「打会」会場から少し離れた樹の影(夜中)
新之助「最近お前はよくがんばっているって、炎心さんも褒めていたぞ。そろそろグループの一員として食事にでも誘われるかもな」
風雅「まかせろ、問題ない」
新之助「今日の賞品の女は上物だ。必ず手に入れたい。頼んだぞ」
風雅「まかせろ、問題ない」
金を受け取る風雅。すぐにまたキャンディーをなめ始める。
◎賭けクイズ「打会」の会場(夜中)
対戦直前、風雅の目に賞品の女が飛び込んでくる。
中学生くらいの若い女の子だった。
動きを止め、見つめる風雅。
新之助「何見てやがる」
風雅「ま、まかせろ、問題ない」
一対一の早押しクイズ対決が始まる。スピーカーから女性の声が聞こえてくる。
声「問題、カナダのバンクーバー島に住んでいるインディアンが作って……」
ポーンと解答件を得たのは、風雅だった。
驚く新之助。
風雅「カウチン・インディアンが作っていたことが由来なのは、『カウチンセーター』」
正解の判定音。
新之助「お、おい。何やってるんだ。答えない約束だろ」
小声で文句を言うが、風雅は無視する。
風雅「ノーチラス号」
正解。
風雅「アボガドロの法則」
正解。
声「問題、各部門の受賞者にグラモフォンというラッパ型の蓄音機……」
すばやく解答権を得る風雅。
風雅「蓄音機が贈られる。正式名称は『NARASアチーブメント・アワーズ』という賞は、『グラミー賞』」
正解の判定音。
新之助「お、お前。裏切りやがったな」
女の子の鎖をはずす風雅。
風雅はすでに彼女が、十年以上も会っていない自分の娘だということに気が付いていた。
新之助「俺たち『スケルトンインザクローゼット』を裏切ったらどうなるのか分かっているんだろうな」
風雅「……まかせろ、問題ない」
さらに何かを言おうとした新之助だったが、観客が投げた物が当たる。
新之助「くそっ」
諦めて逃げていった。
賭け問集団「スケルトンインザクローゼット」首領である炎心が怒ったような様子を見せる。
◎繁華街の裏道(夜中)
料理店の店主が余った高級料理を無造作に捨てている。
風雅が賭けクイズの商品になっていた娘のアリアを引っ張るように歩いている。
急に立ち止まった。
アリア「わたし、何をさせられるんですか?」
風雅は握っていた手を離し、あっちに行けという仕草をして、背中を向ける。
アリア「逃がしてくれるの?」
首を立てに大きく振る風雅。
アリア「ありがとう。でも、帰る場所がないの。母さんもわたしと一緒に連れさらわれて行方不明だし、父さんは私が幼い頃に死んだんだって」
ピクリと眉を動かす風雅。
アリア「君っていい人よね。逃がしてくれたし……、ねえ、わたしを君の家に住まわせて」
だめだという意思を込めて首を横に振る風雅。
アリア「お願い。君しか頼る人がいないの」
風雅「……」
しばらく考えて、あごで来いというふうに合図をし、歩き始めた。
アリア「いいの?」
アリアは、ためらいがちに風雅の後に続いたが、風雅が振り返って微かな笑顔を見せたのに気が付いて、晴れやかな顔になった。
アリア「わたしは、アリア。君、名前は?」
紙切れを差し出す風雅。
アリア「ふうが? じゃあ、フウね」
風雅はいつもの棒の付いたキャンディーを舐め始めた。アリアにも差し出すと、彼女も口にくわえた。
◎風雅のアパート(夜中)
玄関から家の中に入ろうとしたアリアだったが、風雅が窓から入るのを見て、慌てて付いていく。
アリア「窓から入るの。変わってるね」
風雅はアリアに向かって手を伸ばし、少し待つように合図した。
きょとんとするアリア。
風雅は急いで、写真立てを隠した。それには美佐江と幼いアリアの写った家族写真が入っている。
アリアがちゃぶ台の前に座ると、風雅は二人分の皿を用意してその中にお菓子のようなものを山盛り入れた。
風雅はそれを手で摘むとおいしそうに食べた。
アリアも恐る恐る掴んで鼻に近づけた。
アリア「うわっ、何これ。ドッグフードじゃない」
不思議そうな顔をする風雅。
見るとドッグフードの袋が山積みされていた。
アリア「こんなもの食べてちゃだめよ。悪いやつらにだまされたのね。わたしがおいしい料理を作ってあげるわ」
アリア「少しお金持っているから、コンビニで材料を買ってくるわ。待ってて」
玄関に向かうアリア。
アリア「おっと、窓からだったわね」
アリアがいなくなって、しばらく座っていた風雅だったが、心配になってそわそわする。
時計をちらりと見て立ち上がり、窓から外に出る。
◎アパートの前の道路(夜中)
待ち構えていたかのように「スケルトンインザクローゼット」のグループ員らしき連中が、外に出てきた風雅を取り囲む。
中には新之助もいる。
新之助「よう。クイズ王さん」
嫌味っぽく言って、風雅を蹴り上げる。
新之助「やれ」
そう言うと他の連中が風雅に殴る、蹴るの暴行を加え始める。
風雅は丸くうずくまって耐える。
しかし、顔を蹴られ、腹を蹴り上げられると、仰向けになって血を吐いた。
新之助「二度と俺たちの前に現れんな。お前は一生、犬用の骨でもかじってればいいんだよ」
骨を投げつける新之助。
彼らがいなくなってしばらくすると、アリアが買い物袋をぶら下げて帰ってくる。
少し離れたところで道路に風雅が倒れていることに気が付き、袋を投げ出して駆け寄る。
アリア「血だらけじゃない、どうしたの?」
口をパクパクさせる風雅。
風雅「も、問題ない……」
アリア「問題ないわけないじゃない。さあ、つかまって」
アリアはありったけの力で風雅に肩に組ませ、部屋の前まで連れて行った。
玄関を開けようとするアリア。
風雅の頭の中には、玄関の扉を開け「さようなら」といってアリアを連れて出て行く美佐江の姿が浮かんでいた。風雅はそれがトラウマになって玄関を開けられない。
猛烈に嫌がる風雅に驚いたアリアは、諦めて窓に移動した。
◎風雅のアパート(夜中)
布団に横たわる風雅。優しく体の汚れをふき取るアリア。
アリア「痛いでしょう?」
風雅「ま、まかせろ、問題ない」
アリア「……フウは強いんだね」
アリアは買ってきた材料でカレーを作り、風雅に差し出した。
風雅は彼女の作ったカレーを始めて見るかのように眺めて、一口食べた。
目を見開き、複雑な表情をする風雅。
アリア「どう? まずい?」
首を横に振ってから、がつがつと音を立てて食べ切った。
そして三杯続けて食べた。
アリア「どうして賭けクイズ屋なんかに?」
壁を指差す風雅。
アリアが見ると、そこには一枚のポスターが貼ってある。王冠をかぶったテレビ番組で活躍しているクイズ王の姿だった。
同じポーズをする風雅。
アリア「王冠? ああ、クイズ王になりたいんだ。でも、賭けクイズじゃなれないのよ。二度とあんな所にいっちゃだめ、わかった?」
風雅は一回うなずいて、また、ポスターを眺めた。
◎風雅のアパート(朝)
アリアがまだ寝ている風雅をゆする。
アリア「ねえ、フウ。起きて」
目をこすりながら起き上がる風雅。
アリア「わたしバイトを探しに行ってくるわ。ただでここに置いてもらうわけにはいかないから」
それだけ言うと、アリアはすばやく窓から飛び出した。
いなくなったかと思ったら、窓を覗いて言う。
アリア「ドッグフードは食べちゃだめよ。ちゃんと作っておいたから。じゃあ」
風雅は起きて、布団を畳んだ。そして、隠してあった写真立てを取り出して眺めた。
窓から男の声が聞こえる。
鉄平「よお、クイズ王」
葵鉄平だった。彼は慣れた様子でひょいっと窓から家に入った。
風雅は慌てて写真を隠す。
鉄平「突然押しかけてごめん。どうしても会って相談したいことがあったんだ。だって、ほら、俺がこうして商社マンとして働いているのも、お前が俺の身代わりになって賭けクイズ屋になってくれたから足を洗えたんだからな」
頭をかく風雅。
鉄平「それで、話なんだけどな、実は結婚しようと思っている」
驚く風雅。
鉄平「驚いただろ。綺麗で優しい女性でな、あいつとなら一生暮らしていける。どんな女性か気になるだろ?」
首を立てに何度も振る風雅。
鉄平「写真を持ってきた」
写真を差し出す。
風雅は写真を手にした瞬間、固まる。
それは、写真に写った女性が元妻の美佐江だったからだ。
鉄平「彼女な、結婚歴があるんだ。なんでも、その元夫というのが暴漢に頭を殴られて狂っちまったらしいんだ。しばらくは一緒に暮らしたらしんだけど、娘の首を絞めて殺そうとしたんだってよ。だから、かわいそうだとは思ったけど、娘を連れて家を出たんだって」
悲しい表情で手のひらを見つめる風雅。
鉄平「その娘さんが、これまた優しくていい子でな。まあ、それはいいとして、本題はこれからだ」
鉄平は急に真剣な表情になる。
鉄平「彼女、『スケルトンインザクローゼット』っていう賭けクイズ団体の首領の炎心とかいう男に捕まっているらしいんだ」
唇を震わす風雅。
鉄平「だから、そいつと戦ってくるよ。危険なことは分かっている。仮にも賭けクイズ団体の首領とクイズ対決をしようってんだ。命を賭けなきゃいけないだろう」
鉄平の腕を掴み、首を横に振る風雅。
鉄平「お前に負けて、もう二度と賭けクイズはしないって誓ったことを忘れたわけじゃない。でも、今回だけは戦わないわけにはいかないんだよ。許してくれ」
風雅の腕を振り払って、窓を飛び越える鉄平。
鉄平「俺の人生で一番よかったことは、お前に会えたことだよ。ありがとう」
走り去る鉄平。風雅も捕まえようと手を伸ばすが、届かない。
◎風雅のアパート(夜)
日が落ちて暗くなった頃、アリアが帰ってくる。
アリア「ねえ、聞いて。いい日雇いのバイトがあったの。やばいのじゃないわよ。でも、さすがに中学生じゃ、雇ってもらえないと思って高校生だって言ったの。それくらいの嘘はいいでしょ?」
アリアの話を聞いていないようなそぶりの風雅。
アリア「フウ。聞いてるの?」
それでも無反応の風雅。
アリア「ねえったらあ」
体を揺すってようやく気が付く。
アリア「今日のフウ。なんかおかしいよ。深刻な顔して、何か心配事でもあるの?」
風雅「まかせとけ、問題ない」
アリアは何を考えているのか探ろうと風雅の顔を覗き込む。しかし、すぐに諦める。
アリア「わかった、わかった。なんでもないのね。晩御飯でも作るわ。今日はオムライスよ」
それを聞いた瞬間風雅はすっと立ち上がる。
アリア「どうしたの?」
風雅はちょこまかと歩く仕草をする。
アリア「ああ、散歩ね?」
首を立てに振る風雅。
アリア「そうか、一日中家にいたみたいだもんね。いいわ、息抜きしてらっしゃい。でも、遅くならないようにね。ご飯作って待ってるから」
風雅は軽く一礼して、出て行く。
◎繁華街の裏通り(夜中)
賭けクイズの競技場に向かって歩く葵鉄平。
後ろから何者かが近づき、大きな袋をかぶせられる。すぐに倒され、袋の口を縛り上げられる。
ばたばたと暴れたが、男は鉄平の入った袋を担ぎ人気のない場所に運んだ。
男の顔に光が当たる。その顔は風雅だった。
◎賭けクイズ「打会」の会場(夜中)
中央の対決席では炎心が、相手の登場を待っている。
会場は満員で盛り上がっている。
美佐江は、ひどく抵抗したため、薬で眠らされている。
そこに、風雅が現れる。
炎心「風雅か。どうしてお前が?」
美佐江をちらりと見る風雅。
風雅「まかせろ、問題ない」
炎心「ふっ、話しても無駄か。まあいい、相手が誰であろうが、俺が勝つことに変わりはないからな」
解答席につく風雅。
炎心「今日の勝負は特別ルールだ。一問間違えると右腕を、二問間違えると左腕を拳銃で打ち抜かれる。そして、三問間違えると頭を打ちぬかれて即死。つまり、死んだ時点で負けだ」
盛り上がる会場。
炎心「さあ、命を賭けようぜ(舌なめずりをしながら)」
無表情で早押し機を握り締める風雅。
炎心「さあ、ゲームスタートだ」
ぐっと集中する風雅。
スピーカーから問題が流れてくる。
声「問題、別名をレオナルド・ダ・ピサというイタリアの数学者で……」
二人とも押すが、炎心の方が一瞬早かった。
炎心「数列にその名を残すのは、『フィボナッチ』」
声「せいかーい!」
盛り上がる会場。
炎心「やれ」
合図とともに黒尽くめの男に右腕を打ち抜かれる風雅。
風雅「ぐ、ぐがあ……」
もだえ苦しむのを見て喜ぶ炎心。
声「問題、全身は鱗に覆われていて姿は鹿、蹄は馬、尻尾は牛……」
ポーンとまたしても炎心が回答権を得る。
炎心「一日数千里を走る中国の想像上の動物は、『麒麟』」
声「正解でーす」
会場の人々から「撃て、撃てー」と声が飛ぶ。
左腕を打たれる風雅。
風雅「がはあああー……」
炎心「恐れず俺に挑戦してきた勇気は認めてやるよ。でも、両腕を失ってはボタンを押すこともできまい。もう一問でお前はあの世行きだ」
両腕を撃たれて動かせない風雅は、痛みで意識を失いそうになっている。
風雅の頭の中に、鉄平に「俺の人生で一番よかったことは、お前に会えたことだよ」と言われた時のことが浮かぶ。そして、アリアの姿が浮かび「ご飯作って待ってるから」と言う。
風雅「ま、まかせろ。も、問題ない」
完全に意識を取り戻す風雅。
声「問題、名探偵エルキュール・ポアロの『エルキュ……」
ポーンと押して答えようとする炎心。
しかし、回答権を得たのが自分でないことに気がつく。
見ると、風雅が頭で早押し機を押していた。額からは血が流れている。
炎心「ば、ばかな」
風雅「『エルキュール』とは、『ヘラクレス』のこと」
声「せ、正解」
風雅が正解したことで右腕を撃ち抜かれる炎心。
炎心「むおおおー、痛てえ―――」
声「第一回大会の優勝者は、イギリスのホーレン・ローリングス……」
ドカッと額で押して回答権を得る風雅。血が飛び散る。
風雅「ゴ、ゴルフの全米オープン」
声「正解」
炎心N「強烈な痛みの中で、なんていう集中力。こいつ化け物か?」
左腕を撃ち抜かれて、叫び声を上げる炎心。
炎心「わ、分かった。俺の負けだ。認めるよ。あの女は解放する。どこへでも連れて行くがいい」
風雅は疑うように炎心の顔を覗き込むが、本気なことを理解して立ち上がる。
男「待て」
二人腕を撃ち抜いた男が風雅に銃を向けて止まらせる。
男「それじゃあ、観客が納得しねえ。どっちかが死ぬまでやってもらおうか」
炎心「くそっ!」
男「炎心さん。あんたも覚悟を決めるんだな」
炎心と風雅。二人とも死を意識して緊張感と集中力が高まる。
声「問題、1970年頃にハワイ島コナに住んでいたトム・モーリーが考案した……」
二人とも同時に頭で押す。が、回答権を得たのは風雅だった。
風雅「ボディーボード」
声「正解です」
うなだれる炎心。ゆっくりと立ち上がり眠ったままの美佐江に近づく風雅。
炎心「や、やめてくれー!!!」
美佐江を抱きかかえて歩く炎心の後ろの方で炎心の叫び声が聞こえた。そして、続けて銃声が鳴った。
◎繁華街の裏通り(夜中)
アリア「お母さん、お母さん」
アリアが美佐江の体を一生懸命に揺する。
すると、目を覚ます。
美佐江「あ、ああ。アリア? 無事だったのね。よかった」
美佐江の隣に横たわっていた葵鉄平も目を覚ます。
鉄平「こ、ここは? あ、あれっ、美佐江さん……」
アリア「他にここに誰かいなかった?」
美佐江「他に? 捕まってるときに気絶してしまったから知らないわ」
鉄平「俺も、誰かに殴られて……、とにかく皆無事でよかったよね。あははは」
アリア「わたし、ちょっとその辺見てくるから」
そう言って走っていくアリア。
美佐江「アリア、どこ行くの? 待って」
その声はアリアには届かない。
アリアN「フウだ。フウがお母さんを助けてくれたんだ」
息を切らせ、走り回ってフウを探すアリア。
◎街灯の当たる草むら(夜中)
草むらに倒れるぼろぼろの風雅。
アリアが見つける。
アリア「お、お父さーん」
◎風雅のアパート(夜中)
ちゃぶ台の上には、風雅と美佐江とアリアの写った写真が置かれている。アリアは風雅のいない間に写真を見つけて、フウが自分の父親であることに気がついた。
◎街灯の当たる草むら(夜中)
アリア「お父さん。お父さん。死んじゃいやー」
風雅はアリアの口を押さえて、首を横に振る。
風雅「ご、ごめん。アリアの料理食べられない……」
アリア「う、うん……」
風雅「今日のことは、フウとアリアの秘密……。鉄平、美佐江、アリア、三人仲良く……」
それだけ言うと、風雅は息を引き取った。
アリア「いやー」
叫び泣くアリア。遠くから聞こえる、アリアを呼ぶ鉄平と美佐江の声に気が付いて、彼らの元に駆け寄るアリア。
美佐江「どこ行ってたのよ。アリア」
アリア「ごめんなさい。でも、なんでもないの……」
美佐江「それならいいんだけど、今日は鉄平さんの家に泊まりましょうね」
アリア「……うん」
美佐江に手を引かれながら、草むらの方を振り返るアリア。
草むらに横たわる風雅の頭には、アリアが作った手作りの王冠がはめられている。
END